入浴の医学

湯温計を置いた、やわらかな光が差し込む清潔な浴室と湯船

さくらだより 第十九号 令和八年九月発行

ある調査によりますと、ほとんどの日本人はお風呂好きであり、嫌いな方はごく少数なのだそうです。わたしはシャワー派ですが、それでも肩まで湯船につかると身も心も癒やされますね。今回は、入浴の効用について医学的に解説します。

まずは、お風呂のお湯の温度について。湯温は自律神経の働きに大きく影響します。自律神経には2種類あり、全身に活力を与える交感神経と、逆に活力を温存して身体をリラックスさせる副交感神経があります。お湯の温度が、これらの神経の働きに影響するというわけですね。

一般に、42度前後の熱めのお湯は交感神経を刺激し、身体を活動的な状態に近づけます。一方、38〜40度程度のぬるめのお湯は副交感神経が働きやすく、入浴後のリラックスに向いているとされています。このように、目的に応じて湯温を使い分けることができるのですね。ただし、安全面を考えると湯温は41度以下を目安にし、特に年配の方や持病のある方は42度以上の熱いお湯を避けたほうがよいでしょう。

埼玉医科大学の倉林教授によりますと、年配の方ほど熱めのお湯を好む傾向があり、高温浴では血小板が活性化し、脱水によって血液の粘度も高くなりやすいため、血栓(けっせん:血の塊)ができて血管を詰まらせる危険性が増すとのこと。特に年配の方は、熱いお湯につかる長風呂には十分な注意が必要です。冬場に起こりやすいヒートショックを防ぐため、入浴前に脱衣所や浴室を暖めておくことも大切です。

お風呂につかる時間についても、いろいろな研究があります。一般には5〜10分、おでこに汗をかくか、かかないかくらいの時間が目安です。それ以上になりますと身体の水分が失われ、脱水症になりやすいので注意しましょう。入浴の前後には、忘れずに水分をとってください。

最後に、入浴剤についてです。倉林先生によりますと、炭酸ガスを発生させるタイプの入浴剤は、特に年配の方にも使いやすいだろうとのことでした。炭酸ガスは皮膚から浸透し、皮膚の血管を広げて末梢の血流を促す作用が報告されています。血行がよくなることで、身体の温かさも感じやすくなりそうですね。わたしも試してみたいと思います。

ただし、高血圧や脳卒中後などで治療中の方は、入浴剤を治療の代わりに使うことはできません。使用について心配がある場合は、主治医に相談してください。また、製品ごとに濃度や使用方法が異なりますので、表示をよく読み、正しく使いましょう。

なお、心不全をお持ちの方は、重症度やその日の体調によって適切な入浴方法が異なります。肩までつかると全身にお湯の圧がかかり、心臓の負担になることがありますので、主治医に相談のうえ、胸より下までの半身浴などを検討してください。また、アルコールが抜けていない状態での入浴は、低血圧や脱水症、転倒や溺水の原因になりますので避けましょう。

大分は温泉県。自分に合った安全な入浴方法で、健康増進をはかりましょう。

(文責:則行 英樹)

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