さくらクリニックだより 第五号 令和七年八月発行
私の経験ではこの数年、外来で睡眠導入剤(俗にいう睡眠薬)を処方する機会は明らかに増えています。しかも、服用される年齢層も次第に広がってきているように感じています。前任の病院で調べてみたところ、内科外来を受診された方の4~5人に1人は睡眠導入剤(ないし、寝る前に服用する安定剤)が処方されていたことを知り、不眠の薬物治療を行っている方の多さに驚いた次第です。
睡眠薬は不眠の大切な治療薬です。しかし、これまでの私は睡眠薬を処方はするものの、その方の不眠の背景を詳しく分析し、睡眠の質を向上させるためのアドバイスを十分にしてこなかったことに気づき、反省をしました。今回は単に眠れることに満足をせず、良質な睡眠をとるためには何が大切か、という根本的なところを学び直してみたいと思います。まず睡眠の基礎から説明をいたします。
睡眠は大事。そんなことは百も承知なのですが、なぜ大事なのかを考えてみます。まず、質のよい睡眠は子どもたちの健全な発達・発育のために必要不可欠であることがわかっています。ある研究で、3歳児の睡眠時間が9時間未満であった場合、十年後には5人に1人が肥満児となっていたそうで、これは十分な睡眠がとれている子たちに比べると約1.6倍の頻度なのだそうです。また、睡眠時間は子どもの脳の発達に影響しており、睡眠時間の少ない十歳の子どもを2年間追跡した調査では、十分な睡眠時間を確保していた子どもたちに比べて学習(理解)能力が劣り、問題行動が多く、精神的にも不安定であったとの報告がありました。なるほど、まさに「寝る子は(健やかに)育つ」なのですね。
では成人においてはどうなのでしょうか。実はこちらもたくさんの研究結果が報告されています。睡眠障害は特にうつ病、メタボリック症候群、認知症などの発症の可能性を高めることがわかっており、特にうつ病に関しては不眠があるケースでは、そうでない場合と比べて発症の危険率が約3倍に、そして認知症については約4倍であったことが報告されています。もちろん、うつ病は不眠を合併するものですが、報告ではうつ病を発症していない状況下での追跡調査だとのこと。子どもから成人まで、睡眠がいかに身体にとって大切かを示すデータといえそうですね。だから、睡眠は大事である、と結論付けてもよさそうです。
有限会社スリーピース代表で快眠セラピスト、睡眠環境プランナーである三橋美穂氏は、不眠から安眠へ、そして安眠から快眠へ、という流れを提唱なさっておられます。氏は日々の疲れを癒す「安眠」から、明日を生きるパワーを得るための意識的な「快眠」への変容の重要性を強調されていました。次号では氏のアドバイスをわかりやすくご紹介してまいります。
( 文責: 則行 英樹 )